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映画「空白」を観る [映画(か行)]

映画館で予告編を観て怖そうなのに(怖いの苦手)
公開初日に観に行ってしまった作品です。
(ちなみに昨日アップしたクーリエの10分後から鑑賞しました)
空白.png
あらすじはYahoo!映画さんより。

スーパーの化粧品売り場で万引きしようとした女子中学生は、
現場を店長の青柳直人(松坂桃李)に見られたため思わず逃げ出し、
そのまま国道に飛び出してトラックと乗用車にひかれて死亡してしまう。
しかし、娘の父親(古田新太)はわが子の無実を信じて疑わなかった。
娘の死に納得できず不信感を募らせた父親は、事故の関係者たちを次第に追い詰めていく。

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重くて苦しい。(-.-;)

近年稀に見る重くて苦しい映画でした。
かといって最後まで苦しいかというと父親の充(古田新太)と一緒に漁師として働く野木の
存在が時折クスッとさせてくれる(映画の後半ですが)、充自身も野木の存在のお陰で
制御不能状態から破綻することなく暴走した気持ちを鎮めていけたのかと思いました。

正しいってどういうことなんだろう?

正しいこととはなにか、善悪とはなにか、娘花音が万引きしていないと思いたい父充、
自分の対応は間違っていないと思いたいスーパーの店長、
花音を轢いてしまったことを謝ろうとしても充にとりあってもらえない女性、
店長は正しいことをしたとサポートしようとするパートの草加部(寺島しのぶ)、
感情のままに暴走していく充、思っていることを表に向かって言えない店長、
正しいことをすべきだと自分の価値基準を押し付けるばかりの草加部。

観始めて、花音の死を受け入れられず関係者を追い詰めていく充を観て、
いやいや、あなただって娘の話を聞かず娘の悩みも気持ちも理解していなかった、
(元妻に花音の話をされると逆ギレするだけ)
それで他者を追い詰めていく、花音を轢いてしまった女性の謝罪も無視する態度に
気持ちが暴走してモンスター化してしまうと何をいっても聞く耳を持たないとはいえ、
身勝手ではないかという気持ちで観ていました。

登場人物それぞれの立場があって、誰が悪くて誰が良いとも言い難い中、
花音を轢いた女性が充がいつまでも謝罪を受け入れてくれなかったことで自ら命を絶ち、
その通夜にやってきた充に女性の母(片岡礼子)が充に向かって言う言葉、
充に帰れというと想像していた私には、なぜそこまで言えるのだろう、と、
己の心の狭さに気づくような言葉だったのですが、その言葉を受けた充が
少しずつ変わって行く様子、花音のことを理解しようと努力する姿、
そして、最後に花音が描いた絵を観て充が感じたこと、
店長がスーパーを閉めて働いているところで出会った青年に言われた言葉と
同じく、明るい気持ちになれるような余韻で終わる作品でホッとしました。

主役の2人以外にも共感できたのが花音の担任。
行動のスピードが遅い花音にきつく当たっていたことを反省しつつ、
いじめがあったか問い詰める充に対して隠蔽したがる校長や部活顧問と違って
できる限りのことをやって花音や生徒のことを理解しようとする、
教師とはなにか、花音の死をきっかけに自分が何をすべきなのか真剣に考えて
行動し、最後には充の気持ちに少しだけでも応えられるようなことができて
学校の先生もこの担任のような心持ちで生徒と向き合ってほしいと思いました。

と、ここまでは良かったと思った点ですが、
観ていて不快だったのが警察とマスコミと匿名で誹謗中傷する一般人たち。
警察は、花音を轢いた女性、二回目に轢いたトラック運転手に
執拗に問い詰める様子、自白強要させようとする姿が不快でした。
また、マスコミの偏向報道は今に始まったことではありませんが、
執拗に自宅や店舗まで追いかける、言った言葉を恣意的に切り貼りして
電波で流し、印象操作を行う、公共の電波を使って公平な報道を行わず
センセーショナルに報じようとするクズぶりがひどくて本当に不快でしたが、
その報道を信じ込んで家や店舗にいたずら書きをしたり張り紙をする人たち、
本人は正義感なのだと思いますが当事者でない上に真実も知らずに行う愚行、
さらにSNSで誹謗中傷を匿名で繰り広げる人たち。
彼らは皆、自分が安全なところから高みの見物気分でいるわけで、
自分がされる側にいたらどう思うかという思考はないのだろうな、と思いました。
(花音の墓参が終わったあと、元妻、野木と食事する充が、
 食堂のテレビで違う話題をセンセーショナルに報じているのを観て、
 自分のあの報道をふと思い出す姿が切なかった)

映画のタイトルの空白、登場人物たちの心の空白、という意味と、
最後に出てくる花音(と充の描いた絵)にあるものなのかな、と思って
観終わりましたが、充の態度もよくないとはいえ(後半で証拠隠滅するのも)
誰もが加害者にも被害者にもなりうるのではないかという気持ちと、
身近にいる人を大切にして後悔のないように接していきたいと思った
「空白」でありました。


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