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映画「ロジャー&ミー」を観る [映画(や・ら・わ行)]

マイケル・ムーア監督のデビュー作品というので借りてみました。

ロジャー&ミー [DVD]

ロジャー&ミー [DVD]

  • 出版社/メーカー: ワーナー・ホーム・ビデオ
  • メディア: DVD


内容はAmazonさんより。

『ボーリング・フォー・コロンバイン』マイケル・ムーアの原点がここに!
今度は世界一の自動車会社GMに喰いついた!
マイケル・ムーアの生まれ故郷、ミシガン州フリント。
ゼネラル・モータース(GM)の工場町として栄えたこの町は、危機にさらされていた。
会長ロジャー・スミスの合理化政策により、工場が閉鎖され、
人口15万人のうち実に3万人が失業してしまったのだ。
ムーアはこの現状を会長に見せようと奔走するが、面会は拒絶され、
特攻取材もことごとく失敗に終わってしまう…。

 


 

この作品、1989年製作なので四半世紀くらい前の話とはいえ、
その後の彼の作品の原点という意味でも興味深く観られました。

とにかGM会長のロジャー・スミスに直接会う為に粘るマイケル・ムーアがすごいです。
3年間も粘られたら根負けしそうなのですが、この会長がまた面の皮が滅茶苦茶厚いというか
超大企業でもあるのでマイケル・ムーアがまったく近づけない、なのでしつこく追いかける、
この繰り返しに様々な人へのインタビューが盛り込まれています。
その後の作品より荒削りな感じはするのですが表現がストレートで、
今作の製作のきっかけも家族や親戚の多くもGM勤務、故郷もGMの郷みたいな場所で、
故郷愛もあるので、ここまでしつこく追いかけることが出来たのかな、なんて思いました。


マイケル・ムーアがGM会長を追いかける間、インタビューされる人たちは、
GMを解雇され家賃滞納で退去を命じられる人、退去を命じる人(保安官代理だったかな)、
ミス・アメリカ本選を控えて思うことがあっても中立のコメントしかいえないミス・ミシガン
(この人、本選で優勝しちゃうんですが)、
生活保護を受けながら飼っているウサギをペット用、食用で販売する女性、
(この場面はかなり衝撃的なので、ウサギが好きな人は見ない方がいいかもしれません)
生活の為に売血する男性、GMを解雇され賃金の安い刑務所の看守に転職する人、
一方、ホワイトカラーでGMを解雇されたブルーカラーの人たちを怠惰だからと言い切る人たち。。


GMは解雇された人たちの不満を減らしたいのか、大きな劇場を町に作り、有名なスターを呼んで
様々な興行を行うのですが(有名なスターに「前向きに考えましょう」と言わせたりする)
その一方で、全米で11工場を閉鎖し、もっと賃金の安いメキシコなどに同じ数の工場を建設する、
企業は収益を上げることが大事という理由でそういうことを行うGMの姿勢も浮き彫りにされます。


マイケル・ムーアの故郷であるフリントの市長は、GMからの税収減となる対策として、
これからは観光地として盛り上げよう、とハイアット・リージェンシーホテルを誘致し、
フリント市博物館をオープンするのですが、フリント市の歴史の展示に遊園地も併設し、
GM工場の組み立て現場(ロボットなどを置いたりして)の展示など盛りだくさんながら、
未来の子供たちのために、というフリント市長の思惑に反して(というか簡単に予測できたでしょう)
博物館は半年であっという間に閑古鳥が鳴くようになり閉鎖となってしまいます。


一握りの富裕層と貧しい生活に落ちてしまうとなかなかそこから脱出できないブルーカラー、
こういう構造を観ると、いくら自由の国と謳ったところで、

ルポ 貧困大国アメリカ (岩波新書)

ルポ 貧困大国アメリカ (岩波新書)

  • 作者: 堤 未果
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2008/01/22
  • メディア: 新書

この本を思い出しますが、今も全く変わらない構造なんですよね。

今作でも、沢山の失業者(生活保護を受ける人も急増)を出しながら、
GM会長は200万ドルの昇給を受け、フリント市は犯罪も急増し廃墟と化していきます。


犯罪者の急増で刑務所も手狭ににあり税金を使って新しい刑務所が建設されるのですが、
刑務所開所前日に、1泊100㌦で泊れます、という告知に殺到する人たち。
(写真や指紋を撮ったり、囚人服に着替えて泊まれるとはしゃぐ人たちが見ていて不快でした)
 


マイケル・ムーアは、GMの株主総会にもぐりこむことに成功し、質問の機会を得るのですが、
質問した途端に閉会を宣言されてしまいます。
(その時のGM会長のしてやったり、という表情が憎々しいんですよね)


その後、クリスマスイブにも立ち退きを宣告される人たちがいる中、
GMでは会長が社員に向けてディケンズの詩を引用しながら
「たとえ硬貨が一枚もなくてもクリスマスというものは素晴らしい」とメッセージを伝えます。
去り際の会長をやっとマイケル・ムーアはつかまえて、
大量の失業者を出したことで多くの人が家賃も払えず家を立ち退きさせられたり犯罪が急増している、
フリントがどうなっているのか是非見に来てほしいと訴えますが、結局無視されてしまいます。
(立ち退きについては家主に聞けばいいし、失業は気の毒だがフリントにはいかないと言われます)


↑でも書きましたが、
貧富の差が今後ますます激しくなると最後に言うマイケル・ムーアの言葉通り、
現在でもアメリカはその状態が続き、更に格差が広がっているような気がします。


エンドロールで“I am proud to be an American”という歌が流れるのですが、
皮肉交じりの選曲なんでしょうね。


この時描かれた海外移転、日本でも工場の海外移転を行った企業は沢山ありましたが、
ここまであからさまに失業者を大量に生み出すようなえげつなさはないものの、
日本がアメリカと同じ轍を踏んでいるような感じも見ていて思いました。

企業経営も慈善ではなく収益を上げることが大事、というのは分かるのですが、
それで経営者が多額の報酬をもらい、底辺の労働者がどんどん落ちていく構図に矛盾を感じます。

最近では、アメリカに製造拠点を戻す企業に税制優遇みたいな話を聞きますが、
収益性重視で国のことを考えない企業が必ずしも成功しないのではないかな、なんて思いました。
(GM、その後破綻しましたし)


登場しているマイケル・ムーアが今の1/3くらいの体型(笑)で時の流れを感じますが、
今見ても全く色褪せないテーマだと思った「ロジャー&ミー」でありました。 オススメです。


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