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映画「ノマドランド」を観る [映画(な行)]

「スリー・ビルボード」でインパクトが強かったフランシス・マクドーマンド主演、
予告編を観て気になっていたので公開2日目に映画館で鑑賞しました。
ノマドランド.jpg
あらすじはYahoo!映画さんより。

アメリカ・ネバダ州に暮らす60代の女性ファーン(フランシス・マクドーマンド)は、
リーマンショックによる企業の倒産で住み慣れた家を失ってしまう。
彼女はキャンピングカーに荷物を積み込み、車上生活をしながら過酷な季節労働の
現場を渡り歩くことを余儀なくされる。
現代の「ノマド(遊牧民)」として一日一日を必死に乗り越え、
その過程で出会うノマドたちと苦楽を共にし、ファーンは広大な西部をさすらう。


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過酷な環境だけれど束縛されない自由。

文明の利器は最低限、厳しい自然に抗わず共に暮らしていく、
過酷な生活のはずなのに、雄大なアメリカの自然の風景がファーンの心象を
表しているかのような、そんな気持ちで鑑賞できました。

コロナ禍で「ノマド」という言葉が普及しているのは知っていましたが、
(ノマドワーカー、といった使い方)
元々の意味は遊牧民、そこから現代の遊牧民になぞらえて描かれた作品で、
ファーンが知り合いと偶然スーパーで会った時、ホームレスなのか問われて、
ホームレスではなく、ハウスレスだ、と答える場面が印象的でした。

経済的な理由で家を捨て車で移動しながら生活するノマドを選んだ人たち、
ファーンは企業が破綻し、町ごと消滅するという事態の中、
社宅だった家を出て一人ノマド生活を始めるのですが、
ファーン自身も60代、季節労働者として働く先で出会う人たちも
同年代かもっと上の人ばかり。
リーマンショックといえば、大量の失業者を生み出したわけですから、
元々ミドルクラスの人たちが家を失い、車上生活をする流れも多かったのかと思います。

季節労働できる場所を探して転々とする中で、
冒頭に登場するのが年末商戦で忙しいAmazon。
ああそうか、忙しいときはこういう人を雇うのかと、季節労働というと、
(勤務期間中は駐車場も提供する)
農業であれば収穫期、製造業であれば製造量が上がる時期、というイメージで、
サービス業での季節労働というのがピンとこなかったのですが、
ファーンが働く場所も、Amazonから国立公園の清掃、ビーツの収穫と、
多岐にわたり、移動距離もかなりのもの、60代でそういう生活を選択するというのは
並々ならぬ気持ちがないと難しいのではないか、年金受給を早めるように言われても
自分は働いていたいというファーンの姿を観ると、お金は当然大事なのだけれど、
自分が生きていることを感じたいと思っているのではないか、と思いました。

日本でも格差社会と言われて久しいものの、
アメリカの格差社会はもっと以前から、しかも格差がどんどん広がっていく中で、
リーマンショックを境にファーンのようなノマド生活を選択したような人たちが、
アメリカの季節労働者として経済を底支えしているように見えました。

途中で知り合うデイヴといい雰囲気になるので、良い展開を期待していたら、
デイヴは息子の家に住むようになり(ノマド生活には戻る気持ちは薄れ)
ファーンに一緒に住もうと誘うものの、死別した夫のことを今でも思うファーンには
他人の家に住むという選択肢を持てずに別れてしまう。

自分の老い先があとどのくらいか分からない中、自分のやりたいことをしたい、
ファーンはそう思ってノマド生活に戻っていったのかもしれません。

だれでも人間としてプライドを持つ人たち、他人に憐れまれたくないわけで、
ホームレスと聞かれればハウスレスと答えるわけですが、
自動車が故障して修理代を工面できないとき、姉を頼ってお金を借りる場面、
姉はこの家で一緒に住もうと声をかけてくれるものの、そこでもファーンは
一緒に住むのではなく借りたお金は必ず返すと姉に約束して車を修理して
再びノマド生活を始める姿は観ていて切なくなりましたが、
最後の場面には、ファーンにこれから少しでも良いことが起きてほしいと
フィクションなのにファーンを応援したい気持ちで見終わりました。

まるで、アメリカ版「ザ・ノンフィクション」といったドキュメンタリーのような
映画ですが、社会のために真面目に働いていたのに、ちょっとしたきっかけで
あらゆるものを失いこれまで築いてきたものから転落させられてしまう、
実際そういうことが現在のアメリカで起きていることなのだと知るよい機会となりました。

主演のフランシス・マクドーマンドは、
スリー・ビルボード [AmazonDVDコレクション] [Blu-ray]

スリー・ビルボード [AmazonDVDコレクション] [Blu-ray]

  • 出版社/メーカー: ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社
  • 発売日: 2018/11/03
  • メディア: Blu-ray
この作品でもミルドレッドという女性がまるで実在するかのような演技でしたが、
今作もそれ以上というか役柄に入り込んでいる様子が、顔の皺が醸し出す雰囲気と
あわせて本当に素晴らしいものでした。

ミルドレッドが自分はホームレスではなくハウスレスと表現する前、
Amazonの配送センターで季節労働者として働いているとき、
ザ・スミスやモリッシーの歌詞を全身にタトゥーで刻んでいる女性とが、
右腕のタトゥーを指して”Home is a qustion mark”という歌の中の
「家(home)はただの言葉、自分の中にあるものだ」という歌詞を説明してくれる場面が
印象的、その言葉がそのまま終盤まで心の中に残った状態で鑑賞していたので
自分のいるところがhomeなのだろうな、と思いました。

自分も人生折り返している中で、もし何か起きて家を失ったらどうしたいのか、
そんなことも考えたりしたのですが、どのような状況でも流されることなく、
自分の信じることを進めていければと思った「ノマドランド」でありました。




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