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「闇の子供たち」を読む [本・ゲーム・テレビ]

最近映画化され公開されていた「闇の子供たち」の原作を読みました。

闇の子供たち (幻冬舎文庫)

闇の子供たち (幻冬舎文庫)

  • 作者: 梁 石日
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2004/04
  • メディア: 文庫



描写も含めて内容の凄さに兎に角驚いた本でした。



タイの山岳地帯の貧しい農村で暮らす8歳のセンラー。
ある日、見知らぬ男が両親にお金を渡すとセンラーをバンコクに連れて行ってしまう。

連れていかれた場所は、
児童性愛者(ペドファイル)が子供を性の対象として買いにやってくる売春宿。
陽の当たらない地下室にはセンラーと同じような年頃の子供たちが沢山いて
大人の言うことを聞かないと体罰を与えられ食事も出来ない劣悪な環境。
センラーもそんな環境の中で恐怖に怯えながら客を取らされるようになる。

2年前に親に売られてバンコクに行ったセンラーの姉ヤイルーンは、
売春の仕事をさせられている内にエイズに罹り
人知れず田舎の売春宿に安く売られてしまう。
発症し客が取れなくなったヤイルーンは
食事もろくに与えられず遂には黒いゴミ袋に入れられ
生きたままゴミ処理場に捨てられてしまう。
何とかゴミ袋から出て故郷を目指して歩くヤイルーン。
途中の村々で疎まれながらやっと故郷の村に辿り着くと、
母親が帰って来たことを喜んだのも束の間、
ヤイルーンがエイズということが分かった途端、
村人達の決定でヤイルーンは檻に入れられてしまう。
病が悪化し、生きながら屍になっていくヤイルーンに蟻が群がるのをみた父親は、
油をかけて燃やしてしまう。。

同郷の出身でヤイルーンと同じように売春宿に売られた少女から
この出来事について書かれた匿名の手紙を貰ったのが
NGO団体社会福祉センターのナパポーン所長。
日本からやってきた音羽恵子とともに問題を解決したいと動き出すが
軍、警察、マフィアが闇で仕切っている為、なかなか活動が進まず
音羽の知り合いの新聞記者、南部に協力を申し出る。

売られた子供たちが幼児売春だけでなく臓器売買の対象にもされていること、
臓器売買にも軍や警察、マフィアが深く関与していると南部から聞かされ衝撃を受ける音羽。

日本人の子供が心臓移植をタイで受けるという情報を得た南部と音羽は
子供の母親に会いに行くが音羽が移植を止めて欲しいと唐突に言った為
心を閉ざして何も話さないのだった。

タイに戻ってからも移植を止めさせたいと思う音羽と、
移植でやってくる子供と母親の写真とともに記事を載せたいと思う南部。

そうしている間にも時間は過ぎて行き、
あちこちを取材してやっと週刊誌に記事を掲載した南部、と同行する音羽は
マフィアの手先に「日本に帰れ」と暴行を受け、
子供に移植する臓器提供者として選ばれたセンラーは病院に連れて行かれ、
労働組合とともにナパポーン達が参加した2万人のデモ行進では
ナパポーンの協力者(実はマフィアの手先)がデモに参加しながら暴動を起こしていく。。


これでも話の全てではなく、書ききれないのが残念ですが、
話自体はフィクションながら、
海の向こうの国の現実を描いたと思うと何ともいえない気持ちになりました。
悲しいとか、やりきれないとか、そう簡単に表現してはいけないような気持ちです。
怒りも感じましたが、どうしてよいのか戸惑いながらの怒りでした。

作品自体はフィクションとはいえ、現実にこういう問題は今でも存在するでしょうし、
欧米諸国(日本もでしょうね)で法律規制が厳しいから自国で叶わないからといって
貧しい国の子供たちを道具のように扱うことに良心の呵責はないのだろうか、
そんなことを考えてしまいました。


この世に受けた命は誰のものであっても平等であるべきでしょう。

でも、自分に余裕がもてない状況や
自分の命さえギリギリのところで保っているような状況だったとしたら、
平等と思うことが奇麗事だと言われてしまうかもしれません。

親(特に母親)だって好き好んで自分の子供を売り飛ばすことはしないでしょうし、
貧しくてどうにもならないと思ったら自分が生きていく為には仕方ない、
他の選択肢を選ぶことが出来ずに已む無く子供を売るのかもしれません。

以前、貧しい国の子供達でイメージするのが、
フィリピンのごみの山から鉄など換金できる資源を集めている子供達だったのですが
こういう子供達は少しでも生活の足しになるようにと
(たとえ親に言われているかもしれませんが)働いて親と一緒に住んでいるわけで、
今回出てくるような子供達は親から売り飛ばされ道具のように扱われ捨てられる、
本当にタイトル通りの「闇」の子供達であると思うと救われる可能性が少ないと思うだけでもどかしく
自分に何が出来るのか考えても簡単には思いつかないというか
日頃大きな問題もなく過ごしている自分に出来ることは何だろうか、
考えても結局思いつくことはありませんでした。

映画化された作品は内容が事実でないとして、
タイ国政府に上映を認められなかったと聞いたのですが、
全くのフィクションではないでしょうし、国のどこかで現実として起きていることなのだ、と
私は思いました。

日本が本当に富める国なのか、それには疑問もありますが、
私が今の生活を色々不満を言いながらも享受できるのは
やはり自分が富める国に住んでいるからであり、
その生活は人件費の安い国の労働力から生み出されるものによって
成り立ってる部分も多い訳でこの本を読んでいても「自分は関係ない」とはいえないわけで。

ペドファイルといわれる児童性愛者が自国での規制から貧しい国にくる、というのは
欧米のように日本も同じといえるのかもしれませんし、こういう嗜好の人たちが
法的な形も含めて規制されなければならないと思いますし、
そうでない人たちも(私を含めて)こういう現実について目を背けずに
知ることから始めるべきかと思った「闇の子供たち」でありました。


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コメント 12

Krause

衝撃的な内容!梁 石日氏の著作なのですね。新聞に目を通していると、時々そのような事実の一端に通じるような内容の記事を見かけることがあります。
by Krause (2008-10-11 05:08) 

snorita

こういう話を(事実にせよフィクションにせよ)聞くにつけおもうことは、
「買う大人」がいることが諸悪の根源だな、ということです。

貧しさ故に、また人減らしのために、子供を奉公にだしたり、売買したりする親は昔からいて、哀しいことだとは思うけれど、現実ですよね。日本だって、売買こそ目立ちませんが、同じような事をしている親はいますし。
でも、そう言う「子供」を食い物に出来る大人(幼児性愛嗜好だけでなく、タイの娼婦はHIVを持っている確率がたかいので、子供なら大丈夫だろうという安易な考えらしい)は、もう、存在自体消えてしまって欲しい。哀しいことに日本人男性、とっても多いみたいです。
by snorita (2008-10-11 11:17) 

Bonheur

タイで上映が中止になった映画の内容って、こういうことだったのですね・・・
まさに「生き地獄」な子供たちのお話、記事を拝見して胃が痛くなってきました。。 子供や女性を道具として扱う人たち、罰が当たればいいのに。。
by Bonheur (2008-10-11 13:46) 

南雲しのぶ

悲しい話しですが、フィクションというよりノンフィクションなのでしょうね。
日本人も買春目的で渡航する人たちが少なからず居るようですね。
小児性愛は趣味や嗜好としてとても認められるものではありません。

ただ、単に厳しく罰しさえすれば良いのかという問題もあるでしょう。
結果としてアンダーグラウンドに潜ってしまっては意味ありませんし。
by 南雲しのぶ (2008-10-11 18:29) 

好(ハオ)くん

妻夫木ファンとして、この映画を知りました。今年の1月にバンコクへ行って、ガイドさんが「北部に行くと、食べることも出来ない子供がたくさんいるんですよ」と話してくださったことを思い出しました。

日本は本当に飽食になってしまったのだと改めて思います。
タイの子供たちは、目が大きくてすごくかわいらしいので、彼らの未来が明るいものであるように願うばかりです。
by 好(ハオ)くん (2008-10-11 20:43) 

うつぼ

Krauseさん、おはようございます。
私も友人から本を借りて何気なく読んだのですが、今まで読んだ本と比べ物にならないくらい衝撃的でした。
梁 石日氏というと「月はどっちに出ている」「血と骨」などご自身の半生を元に描かれた本もありますが、こういう本も書かれているのは知りませんでした。
新聞でも時々報道を見ますが、出来るだけ早く政府レベルで取り上げて解決に進んでいってほしいと思います。

by うつぼ (2008-10-12 08:30) 

うつぼ

snoritaさん、おはようございます。
仰る通り「買う大人」が諸悪の根源なんですよね。
本の中では日本人、アメリカ人(ここだけは女性の同性愛者カップルの設定)、フランス人、ドイツ人、アラブ人が子供を買いにやってくる様子が描かれていますが、客の要望だからといって小さい男の子にホルモン剤を何度も打って結果的に子供が死んでしまう、という場面もありました。
以前政府公認のペドファイル団体がデンマークにあったようですが(今は当たり前ですが閉鎖されています)、こういう考えの人たちは消えてほしいと思います。また、臓器移植についても描かれていましたが、日本で禁止されているから外国で、、早く、すぐできる理由からタイに、、、というのが何とか改善されないか、もどかしく思いました。。
by うつぼ (2008-10-12 08:36) 

うつぼ

Bonheurさん、おはようございます。
子供達からしたら何故自分がこうなってしまったのか、、分からないまま命を落としていくというのがやるせない気持ちになります。
日本では法律があまり厳しくないのが問題であって、タイも含めて世界各国の法律をもっと厳罰化していくべきかと思いますね。
by うつぼ (2008-10-12 08:38) 

うつぼ

南雲さん、おはようございます。
>単に厳しく罰しさえすれば良いのかという問題もあるでしょう。
確かに、警察や軍がマフィアと関係しているからでしょうが、例えば日本からのODAを減額するとか(きちんと使われていないこともあるでしょうし)、日本政府が真剣に考えるべき問題の一つであるとは思います。
by うつぼ (2008-10-12 08:40) 

うつぼ

好(ハオ)くんさん、おはようございます。
妻夫木さんは南部の依頼で現場の様子を撮影するカメラマンの役ですね。
北部山岳地帯はバンコクに行くことも禁じられていて都市部との貧富の差が開いていると本には書かれていましたが、ODA金額や観光客が多い日本も、こういう側面から考えることも必要かと思いました。
by うつぼ (2008-10-12 08:57) 

cocoa051

この小説は書評などで読んで見たいと思っていましたが、まだ読んでいませんでした。
作家の梁石日さんモノは好きというか、関心のあるテーマが多いのでこれまでも読んできました。が、この本はとくに重そうで読むのをためらっていました。
うつぼさんのレビューを読んで、やはり読破したくなりました。
by cocoa051 (2008-10-13 08:18) 

うつぼ

cocoa051さん、何度もこんばんは。(^^)
かなり描写が激しいというかくどいと言うか、途中読むのをためらってしまう場面もありましたが、タイに対して多くの援助を行なっている日本に住む者として、知るべき内容かと思いました。
cocoa051さんも時間がありましたらどうぞ読んでくださいね。
by うつぼ (2008-10-13 20:51) 

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